このシリーズが始まってもうすぐ2年となります。
当ブログをご覧いただきました、株式会社サイバーディフェンス研究所様より、昨年秋に制御システムセキュリティの学習・教育用として、鉄道模型制御装置一式をご用命賜りました。
ベースとなる走行制御は今まで開発してきた自動加減速機能を搭載した完全デジタル制御方式のコントローラを更にカスタマイズして、PLCによる全体制御に対応させるほか、HMI(ヒューマンマシーンインターフェース)としてのタッチパネル※を用意して、
ポイント制御によるリアルな走行を実現させます。
※今回は入手性と通信方式の選択も考慮し、タッチパネルをPCにてシミュレーションできるソフトを導入しました。画面上をマウスでクリックすれば同様の操作ができますし、タッチパネル対応ディスプレイがあれば、そのまま画面をタッチして操作できます
手動操作での走行レイアウトですが一応、今後の拡張性を考慮して基本設計を行っています。
【走行コンセプト】
同一レイアウト上に同時走行列車を2編成とし、走行方向および速度は独立して制御できるものとします。そのため制御はかなり複雑になります。
まず2編成を同時に走らせるために必要な内容を解説していきます
一般的にNゲージの基本セットを購入すると、基本的な周回レイアウトにコントローラと列車が各1セット入っています。ここでは通常のセットに入っている電圧制御のコントローラを例にします
電圧制御の場合は線路上にコントローラ(直流電源装置)を接続して、その電圧を変えることによって列車を動かすことができます。
図1. 基本構成例
電圧が0(ゼロ)もしくは限りなく低い状態であれば列車は停止していますが、電圧を上げていけば、ほぼそれに比例して列車は速度を上げて走行します。
図2.電圧と速度の関係
ただし、どこまでも電圧を上げられる訳ではありません。搭載されているモータの定格電圧の都合で直流12V程度が実質の限界と考えますが、実際に12Vを常時かけるとかなりの速度で走行しますので、レイアウトによっては脱線の恐れがあります。
線路に供給している電源の極性+・-を反転すれば列車は逆方向に走行します。
図3-1. 走行方向 図3-2. 給電を入れ替えれば逆方向に走行
線路は一つの回路ですので普通に考えればどこに列車があってもコントローラで速度および方向制御が可能です。
そこに別で購入した列車をもう一編成乗せます。どちらの列車もコントローラからほぼ同電圧がかかり、列車のスペックが同じであれば同じ速度で走行します。
個体差によって速度が少しずつでも異なれば早い列車が遅い列車にいずれ追突するかもしれません。当然ながらこれでは自由に独立制御ができません
図4. 2編成をそのまま走らせた場合
そこで、レイアウト上で線路を電気的に分割して、列車の存在する限られた区間だけに電源を供給すれば走行する方向や速度を自由に制御できます。
一般に言われる閉塞制御となります。
図5. 閉塞制御の例
ただし、この場合列車がどこに存在しているのかを明確に把握できなければ制御はできません。今回はレイアウトを14の区間に分けて制御します。また、閉塞区間ごとに3個の在籍センサを設置しますので単純計算で42個のセンサが必要となります
更に注意が必要な点は、方向も分岐も自由に走行できるのでポイントを通過する際にはその電気的な構造も考慮しなくてはなりません。列車の存在位置や進行方向などのタイミングによっては短絡などの恐れもあります
【レイアウトコンセプト】
今回は周回コースを基本に島式ホームを設置し、②・③での通過およびすれ違い走行が可能です。またホーム反対側には➅の分岐を用意し車庫への退避ができます
待避線の途中にもすれ違いできるようにポイントを設置し、⑪・⑫での単線区間のすれ違いも楽しめます
図6. 基本レイアウト
【速度制御方式】
速度制御は先に述べた電圧を可変する制御ではなく、安定した直流12Vを一定時間内で細かくON/OFFして制御しています。
この方法は一般的にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれています(パルスの幅を変更する方式です)
仮にONの時間を20としOFFの時間を80とすれば20:80=1:4(1/4)つまり25%の時間しかONしていないので電圧が12Vかかっていてもモータは比較的低速回転となります。
図7. デューティ比25%の場合
ON/OFFが50:50であれば半分程度の速度で回転できます。このON/OFFの比率をデューティ比と呼びます
図8. デューティ比50%の場合
電圧制御の場合、可変抵抗器(ボリューム)で電圧を変えるだけなので手軽に制御できますが、なぜPWMという面倒なことをするかというと大きく2つのメリットがあります。
鉄道模型におけるPWM制御についてはネットで詳しく解説されていますのでここでは略しますが一つはこの方式は低速走行がとても滑らかなのです。安定した低速とゆっくり加減速していくというリアリティが再現できます。
もう一つは前照灯および尾灯の常点灯があります。停車時でも灯火類が点灯可能になるのです。車両によりますが、モータの起動が始まるより低めのデューティ比(10%台前半)でも灯火類が先に点灯しますので停車中はそのデューティ比を維持しておけばよい訳です
この常点灯によってより実車に近くなります
図9. 停車中デューティ比10数%の例
PWMであっても極性は決まっていますので、走行方向に合わせた前照灯および尾灯が点灯します。もちろん車両ごとに点灯レベルが異なるので、コントローラの初期設定で変更可能です。
PWM制御を行うにあたって、コントローラの中にPICと呼ばれるマイクロコントローラを搭載しています。PWM波形はプログラム制御で生成しています。
使用チップはミッドレンジ8ビットの16F887です。入出力ピンは機能拡張も考慮してすべて使っています。
コントローラは現在主力のワンハンドルタイプとし加減速は自動で行います。EB・B3・B2・B1・Nの減速度およびP1・P2・P3の加速度等も個別設定可能です
今回はPLCとのインターフェースも装備し、PLCから自動減速や停止制御も可能です。防護信号で緊急停止させることもできます
レイアウト上の都合でどうしても最高速設定を抑えたい箇所を設定しておくことで無用な脱線を防げます
写真 コントローラ
【センサ入力回路】
普段私たちが使っているセンサはキーエンス製およびオムロン製のものが多いのですが、鉄道模型には大きすぎで、しかもコスト的に合いません。今回のレイアウトで列車の存在確認にTPR-105Fというセンサを使用して進めてきましたが、生産終了アナウンスが出ており、後継品のLBR-123Fが販売されていますのでここは迷わず後継品を選択します。多くの場合、後継品は電気的特性等において改良されていることが期待されます。
線路の間に設置して走行する列車の下部を検知しますが、このセンサの検知距離は頑張っても10mm程度ですので、設置高さは線路の面一程度になるように枕木部分の上に固定します。小型で安価なセンサですが、小型ゆえになんといっても光電流(自身が発光した光が対象物に反射して戻ってきた状態)が100µA(0.1mA)~という何とも控えめな値ですのでロジックICでレベルを合わせてPLCに入力します。
当然ながらPLCの入力は電圧が異なるのでトランジスタアレイでドライブ(駆動)してもよいのですが、PLCの入力保護(電気的な絶縁)もかねてフォトカプラを介してドライブします。実物で何度か動かしながら各部品の値を算出しました。
写真10. センサLBR-123F
図11. センサ変換回路の概略図
【ポイント制御】
コイルに電流を流して線路を切り替えるポイントの制御ですが常に電流を流し続けると焼損の原因となります。PLCからの出力はタイマ等を入れて電流を流し続けないようにします。また構造上ポイントがどちらの分岐になっているかを知るセンサの取り付けが困難でしたので、電源投入時に強制でポイントを切り替えて位置を確定します
【ユニット構成】
これらの内容により全体図が次のようになります
図13. 全体構成
コントローラ・・・2台
センサ変換基板・・・2セット
ポイント制御基板・・・1セット
電源供給(切替)基板・・・2セット
PLC全体制御装置・・・1セット
レイアウトボード(1,800×900㎜)・・・1式
TOMIX製のレイアウトボードを3枚連結し、アルミフレームの上に固定します
もちろん分割して運搬できるようにセンサ等はすべてコネクタ式としています
【ソフトウェア】
今後の拡張性を考慮して、基本設定で列車の種別・列車番号等をそれぞれ設定できるようにしてあります。種別でポイント分岐や管理などを行う用途も想定しています。
図13. 画面(例)
画面上には各センサの状態をモニタでき、列車の走行位置やポイントの状態をリアルタイムに見ることができます。モニタ画面は指令センタのイメージです。ここでポイントの制御も可能です。
また、初期設定において閉塞区間ごとの最高速設定もできるようにしてあります。
全体写真
【今後の拡張性】
豊橋市には市内線(路面電車)が走っておりそのレイアウトを再現するのも面白いです。
複線区間・単線区間・分岐・車庫や終点駅での縦列停車・交差点信号との連動などのバリエーションが想定されます。
それに合わせてコントローラの改良による完全自動運転も視野に入れています。
また豊橋駅特有である名鉄線とJR飯田線で共用の線路を通って相互に豊橋駅に乗り入れる自動制御もなかなか面白いと思います。
タイマ等で決められたパターンだけで動かすだけでは面白くありませんから自動運転に人為的に介入できるようにします。難易度が一気に高くなります。
名鉄線と飯田線がほぼ同時に単線区間に進入しそうな場合、先に単線区間に入って途中駅に停車している飯田線に後から入ってきた名鉄線が迫ってくる状況、1面しかない名鉄線ホームの先発列車が出発する前に次発の列車が接近する場合などでも衝突することなくスムーズに制御することが重要です。PLCでの全体制御と、コントローラでのPWMシステムを総合的にコントロールすることになります。
いずれも自動加減速を含めての制御になるのでやりがいがあると思います。
鉄道模型一つとっても、制御の可能性という面においてはまだまだ無限にあります。
サイバーディフェンス研究所様の声
制御システムへのサイバー攻撃の教材としてリアルな制御システムを求める中で鉄道模型シリーズに出会い今回の製作をお願いしました。こちらは納入いただいた鉄道模型を制御している様子です。
動画リンク⇓⇓⇓
リアル感に驚くとともに、弊社SCADAも含めた教材開発の相談にのっていただく中、設計にこだわるプロ意識に触れ多くのことを学ぶ事ができた事に大変感謝しております。